修復技術がかえって文化財を傷める結果となった...あの事件についてもう一度。

2015年2月21日土曜日

よもやま

t f B! P L
なかなかデリケートなお話なのですが…
樹脂がもたらす被害というものが問題とされたこと、覚えていますか?

その時問題とされたのがポリビニルアルコール。

一般にPVAやポバールなどと呼ばれます
我々の暮らしには身近な素材で、洗濯のりなどに使われていますね。
だから安全とされています。

しかし所詮は合成樹脂。
マガイモノであるとしか言いようがありません。

それが顕著に表れたのがその報道。
上野東照宮の壁画や元興寺さんの板絵などに使われた合成樹脂が
年月を経て劣化し、剥離や白濁などの被害が起きたというものでした。

<当時の報道>
NHK「かぶん」ブログ 2011年02月19日 (土)
 特集・文化財に広がる"合成樹脂被害"を追
 http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/700/72888.html



文化財修復に使われ始めたのは昭和20年代。
科学万能、最新技術として使われ始めたのでしょうが…

<参考資料>知恩院経蔵内部彩色剥落どめ処置 - 東京文化財研究所
 http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/5/pdf/00504.pdf

「合成樹脂」。残念ながら、それは万能ではありません。
使われたものは、分かりやすくいうなら「弱いプラスチックの膜」だったわけです。

それがセロファンのように浮いたり濁ったりしてしまったら?
おそらく素材を傷つけないように取り除くのは困難です。


では今の文化財修復には何が使われているのか?
心配ですよね?

現在は出来る限り、当時の素材、当時の技法に忠実に行われているようです。
そのかわり、技術を再現するということだけでなく、
素材を再現するための原料、素材の加工技術が必要となります。

 「素材の復元」

失われつつある「伝統素材」を守るコト、研究するコト、そして伝えていくコト。
現代に生きる私たちの行うべき「コト」であろうと思います。



さて、さらに問題なのは私たちが暮らす「住まい」。
文化財と違って、樹脂製品ばかりですよ。

木材として多用されている集成材は木を樹脂でくっつけたものです。
接着剤で固定された建具も少なくありません。
ある時期の壁材はノリとして樹脂を使ったものばかりでしたし、現在のものもそれに類するものが少なくありません。

それらの樹脂が傷めば、文化財の劣化どころか、直接私たちの住まいの問題となっるんです。


「だったら、壁には漆喰を塗ろう!」
と言いたいのですが、残念ながら、樹脂が入っている漆喰、少なくないのです。

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